熱帯魚
「みんな死ねばいい」という言葉を僕は美化して「地球が滅亡すればいいのに」って言う。
最低最悪な言葉を最低最悪な僕は綺麗な言葉にして、
そして毎日繰り返す何も変えられなかった今日を正当化して日が落ちた。
でも日が落ちただけであって夜はもう来ない。
僕に夜はもう越せない。
でも地球が滅亡して皆等しく骨になって砂になって還る。
そうじゃなきゃ、そうでもしなければ、
僕はどう生きればいい?
放課後に失くした栞を一緒に探してくれた親友も、
コンビニのレジのバイトの誤差を後輩にミスにしていた先輩も、
今も世界のどこかで戦争を指揮して大量虐殺をしている彼らも、皆平等に砂になるんだ。
こんなにも平和な事って他にあるだろうか
───いや全部幼稚な妄想だね、知っています。
今まで生きてきた人生、何も達成出来ずに中途半端に挫折して、諦めて続かない事ばかりだったのに
「怠けて人様に迷惑をかけて生きること」だけが僕が唯一続けられている皮肉。
でも間違うことでしか人生の過ちに気が付くことが出来ないのに、気が付いた時にはもう手遅れで、
それでも今でもあの時の選択肢に正解があったかもわからない。
ただただ親の世間体と高い学費で敷かれたレールを走っていただけ、踏み外したときには僕は僕を救うことが出来なかった。
救われたことがないから、救い方もわかりませんでした。
これも言い訳かもしれない。
レールに乗っていた僕はいつも目を開けないように、聞こえないように、「悪」と誰かが決めたものは見て見ぬふりをしていた。
地球が規則正しく自転している、その原理すらも知らないまま僕もそのまま大人になった。中身のない人間、僕が1番なりたくなかったもの。
自分を守るためについた嘘が知らないうちにもう1人の自分を生んで僕に似た彼は僕の代わりにこの世界の面倒臭いこととか、悲しいこととか、嬉しいこととか、上手く取り繕って生きている。
嘘に嘘を塗り重ねて、嘘は本当になった、そう信じてる。
信じているものはいつだってその時の正解だから。
でももう誰も僕のことは知らない。知らなくていい。
僕の模造品だったはずの彼が独り歩きして、
ちょっとはマシな人間に擬態しているから、
でもそれでも何も世界は変わらないから、
これが正解だったに違いない。
「なあそうだろ?」
「君が思うならそうだよ。」
夏を知らないままもうとっくに夏は溶けて、
秋も通り過ぎて冬になる。いつもそうだ。
決まって冬は来るのに春も夏も秋も来ない。
僕は冬が好きだからそれでいいのかもしれないけれど、あの日見た花火をもう一度見たかった。
窓から入る冷たい空気で鼻がツンとする。
夏らしいことなんて何もしなかったな。
いつかきっと僕にも夏が来るのだろうか。
机に置かれた40センチの水槽の中で、
ゆらゆらと泳ぐ熱帯魚が今日はやけに綺麗に見えた。
毎日温かい水槽で泳ぐ彼らはきっと毎日夏みたいなものだから、
僕と逆行していつか来る冬を待ち望んでいるのだろうか。
冷たい水温で、彼らは生きていくことも出来ないのに。
「なあ今年も冬は来たよ」
答えはなかった。